学術活動

2026.05.05

生涯自分の歯で噛むために|「8020」を目指す予防歯科の考え方と、今日からできること


「歯を失う」と聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか。高齢になってから起こること、自分にはまだ関係ないこと——そう感じていらっしゃる方も多いかもしれません。しかし実際には、歯を失うプロセスは20代、30代のころから静かに始まっていることが少なくありません。

「8020運動」という言葉をご存じでしょうか。「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という目標を掲げた取り組みで、厚生労働省と日本歯科医師会が推進しています。人間の永久歯は全部で28本(親知らずを除く)。そのうち20本以上が残っていれば、ほとんどの食べ物をしっかり噛んで食べることができると言われています。

今回は、歯を失わないために今からできること、そして「予防」という考え方の大切さについてお伝えしたいと思います。年齢を問わず、すべての方に読んでいただきたい内容です。


日本人が歯を失う原因とは

日本人が歯を失う原因の第1位は「歯周病」、第2位は「虫歯」です。この二つで、歯を失う原因の約7割を占めています。

特に歯周病は、40代以降の歯の喪失原因として圧倒的な割合を占めます。歯周病は痛みなく進行するため、症状に気づいたときにはすでに歯を支える骨がかなり減ってしまっている——というケースが後を絶ちません。

また、見逃しやすいのが「歯根破折(しこんはせつ)」です。過去に神経を取った歯(失活歯)は、生きている歯に比べてもろくなっており、強い力がかかると根っこが割れてしまうことがあります。歯根破折は歯を失う原因の第3位とも言われており、噛み合わせの管理とも深い関係があります。

つまり、歯を守るためには「虫歯にならないこと」「歯周病を進行させないこと」、そして「歯に過剰な力をかけないこと」の三つが重要なポイントとなります。


「予防歯科」とは——治す医療から、守る医療へ

従来の歯科医療は、「悪くなったら治す」という考え方が中心でした。虫歯ができたら削って詰める。歯周病が進んだら手術をする。歯を失ったら入れ歯やインプラントで補う。もちろん、これらの治療は必要な場面で大きな役割を果たします。

しかし近年、世界的な歯科医療のトレンドとして、「そもそも悪くならないように予防する」という考え方が主流になってきています。これが「予防歯科」です。

予防歯科の基本は、定期的な検診とプロフェッショナルケアによって、病気の発症そのものを防ぐこと、あるいは初期の段階で発見して最小限の介入で対処することにあります。一度削った歯は元には戻りませんし、一度失った歯を支える骨を完全に回復させることも容易ではありません。だからこそ、「治療が必要になる前に手を打つ」ことが、歯の長期的な保存にとって最も効果的なアプローチなのです。

欧米の歯科先進国では、「痛くなくても定期的に歯科医院に通う」という習慣がすでに定着しています。スウェーデンでは国民の約9割が定期的な歯科検診を受けており、80歳時点での平均残存歯数も日本より多いとされています。日本でも、こうした予防意識は年々高まっていますが、まだ「歯が痛くなってから歯医者に行く」という方が多いのが現状です。


予防のための「二本柱」——セルフケアとプロフェッショナルケア

歯を守るための予防は、大きく二つの柱から成り立っています。

一つ目は、ご自身で毎日行う「セルフケア」です。歯ブラシによるブラッシングはもちろん、歯間ブラシやフロスを使った歯と歯の間の清掃が非常に大切です。歯ブラシだけでは、お口の中の汚れの約6割程度しか除去できないとも言われています。歯間ブラシやフロスを併用することで、除去率は8割以上に向上します。

ブラッシングの「質」も重要です。力を入れてゴシゴシ磨くのではなく、一本一本の歯を丁寧に、毛先が歯と歯ぐきの境目にしっかり当たるように磨くことがポイントです。磨き方に自信がない方は、歯科医院でブラッシング指導を受けることをお勧めします。自分では気づかない「磨き癖」や「磨き残しやすい場所」を知ることは、セルフケアの質を大きく向上させます。

また、最近では電動歯ブラシを使用される方も増えていますが、電動歯ブラシが万能というわけではありません。使い方によっては歯ぐきを傷つけてしまうこともあります。手動の歯ブラシであれ電動であれ、正しい使い方を知ることが最も大切です。

二つ目は、歯科医院で受ける「プロフェッショナルケア」です。定期的にプロの手でクリーニング(PMTC:プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)を受けることで、セルフケアでは取りきれない汚れや歯石を徹底的に除去します。

また、プロフェッショナルケアでは、歯ぐきの状態のチェック(歯周ポケットの測定、出血の有無など)、噛み合わせの確認、初期の虫歯や歯のひびの発見なども行います。これらの検査を定期的に受けることで、問題を早期に発見し、大きくなる前に対処することができるのです。


定期検診の頻度はどれくらい?

「定期検診は何か月に1回通えばいいの?」というご質問をよくいただきます。

一般的には3〜4か月に1回の受診が推奨されますが、適切な頻度はお一人おひとりのお口の状態やリスクによって異なります。歯周病のリスクが高い方や、過去に歯周病の治療を受けた方は、1〜2か月に1回の通院が必要な場合もあります。

重要なのは、「決められた間隔で通い続けること」です。半年に1回、1年に1回の検診では、その間に起きた変化を見逃してしまう可能性があります。特に歯周病は、数か月の間に急速に進行することもあるため、こまめなチェックが欠かせません。

また、定期検診を「痛いことをされる場所」ではなく、「歯を守ってもらえる場所」として捉えていただけると、通院へのハードルも下がるのではないでしょうか。

実際に、定期的にメンテナンスに通われている方からは、「歯がツルツルになって気持ちいい」「お口がすっきりする」といったお声をいただくことも多く、エステやヘアサロンに通うような感覚で楽しみにされている方もいらっしゃいます。


噛み合わせの管理も予防の一つ

歯を守るための予防というと、「歯磨き」と「クリーニング」をイメージされる方が多いと思いますが、実はもう一つ見逃してはならないポイントがあります。それが「噛み合わせ」です。

歯を失う原因の一つに、特定の歯への過剰な力(咬合性外傷)があります。噛み合わせが悪いと、一部の歯に集中的に力がかかり、歯周組織にダメージが蓄積されます。これは歯周病の進行を加速させる要因にもなりますし、歯根破折の原因にもなり得ます。

定期検診で噛み合わせの状態を確認し、問題があれば早めに対処することも、大切な予防策の一つです。噛み合わせに大きな問題がある場合は、矯正治療が有効な場合もあります。


歯を失うことが全身の健康に与える影響

歯を失うことの影響は、お口の中だけにとどまりません。近年の研究により、歯の本数と全身の健康には密接な関係があることがわかってきました。

まず、食事への影響です。歯の本数が減ると、硬いものや繊維質のものが噛みにくくなり、食べられるものが限られてきます。その結果、やわらかいものや炭水化物中心の食生活に偏りがちになり、栄養バランスが崩れてしまいます。タンパク質やビタミン、ミネラルの摂取量が減少し、全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

次に、認知機能との関連です。歯の本数が少ない方は、認知症のリスクが高いという研究報告が複数あります。噛むという行為は脳への血流を促進し、脳の活性化に寄与しているとされています。歯を失って噛む機能が低下すると、この刺激が減少し、認知機能の低下につながる可能性が指摘されています。

さらに、「オーラルフレイル」という概念も注目されています。お口の機能が少しずつ低下していく状態を指し、滑舌の悪化、食べこぼし、噛む力の低下などが初期症状として現れます。オーラルフレイルは全身のフレイル(虚弱)につながり、要介護状態のリスクを高めることがわかっています。

歯を守ることは、食を守り、脳を守り、全身の健康と豊かな生活を守ることにつながるのです。

また、歯を失うことは心理面にも影響を及ぼします。口元の見た目が変わることへの不安や、入れ歯への抵抗感、人前で食事をすることへの遠慮など、社会生活の質にも関わってきます。「自分の歯で噛める」ということは、想像以上に日々の生活の豊かさに直結しているのです。


今日からできる三つのこと

歯を失わないために、今日から始められることをまとめてみましょう。

一つ目は、毎日のブラッシングに歯間ブラシまたはフロスをプラスすることです。夜寝る前の歯磨きの際に、ぜひ歯と歯の間の清掃を習慣にしてください。歯周病も虫歯も、歯と歯の間から始まるケースが非常に多いです。

二つ目は、定期的に歯科医院で検診を受けることです。「痛くないから大丈夫」ではなく、「痛くないうちに診てもらう」という発想に切り替えてみてください。早期発見は、大きな治療を回避し、歯を長く残すための最善の方法です。

三つ目は、気になることがあれば早めに相談することです。「歯ぐきから出血する」「歯がしみる」「噛むと違和感がある」——こうした小さなサインを見逃さず、早めに歯科医院を受診することが大切です。小さな変化のうちに対処すれば、治療も最小限で済み、歯への負担も少なく抑えることができます。

どれも特別なことではありませんが、これらを「知っている」だけでなく「続ける」ことが、10年後、20年後のお口の健康を大きく左右します。「あのとき始めておいてよかった」と思える日が、きっと来るはずです。


当院の予防歯科への取り組み

東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科 包括CLINICでは、治療が必要になる前の「予防」を重視した診療を行っております。

マイクロスコープを活用した精密な検査で、肉眼では発見しづらい初期の問題も見逃さず、早期対処につなげています。歯科衛生士がマイクロスコープを使用してクリーニングを行うことで、歯石の取り残しを最小限に抑え、質の高い予防処置を提供しています。

また、噛み合わせの分析にも力を入れており、特定の歯への過剰な負担がないかを確認することで、歯根破折などのリスク管理も行っています。矯正治療と歯周治療の両方の視点から、お口全体のバランスを整え、歯を長く健康に保つための包括的なサポートを心がけております。

「自分の歯をできるだけ長く残したい」「将来入れ歯にはなりたくない」——そうした思いをお持ちの方は、ぜひ当院にご相談ください。一緒に「8020」、そしてその先を目指しましょう。