学術活動

2026.04.25

「歯が長くなった気がする…」それは歯肉退縮のサインかもしれません


「最近、鏡を見ると歯が長くなったように感じる」「冷たいものを飲むと歯がキーンとしみる」——こうした変化に心当たりはありませんか?

もしかすると、それは歯肉退縮(しにくたいしゅく)のサインかもしれません。

歯肉退縮とは、歯ぐきが本来の位置よりも下がってしまい、普段は歯ぐきに覆われている歯の根元が露出してしまう状態のことです。「歯ぐき下がり」「歯ぐき痩せ」とも呼ばれ、見た目だけでなく、お口全体の健康に大きく関わる問題です。

「加齢だから仕方ない」と思われがちですが、実は20代・30代の若い方にも起こることがあります。今回は、歯肉退縮の原因や放置した場合のリスク、そして予防や治療の方法について、わかりやすくお伝えします。


健康な歯ぐきと歯肉退縮の違い

健康な歯ぐきは、歯の根元をしっかりと覆い、ピンク色で引き締まった状態です。歯と歯ぐきの間に適度な密着があり、外部の刺激から歯を守る役割を果たしています。

一方、歯肉退縮が起こると、歯ぐきが下がり、本来隠れているべき歯の根元(歯根)が露出してきます。歯根はエナメル質で覆われておらず、象牙質やセメント質がむき出しの状態になるため、さまざまなトラブルが生じやすくなります。

見た目としては「歯が長くなったように見える」のが特徴的なサインです。


歯肉退縮が起こる主な原因

歯肉退縮にはさまざまな原因があり、多くの場合、複数の要因が重なって進行します。主な原因を見ていきましょう。

1. 歯周病

歯肉退縮の最も多い原因のひとつが歯周病です。歯周病は、歯と歯ぐきの境目にたまった歯垢(プラーク)の中の細菌が原因で起こる炎症性の病気です。進行すると歯を支えている骨(歯槽骨)が少しずつ溶かされてしまいます。歯槽骨の上に歯ぐきがあるため、骨が減れば自然と歯ぐきも下がってしまうのです。

初期のうちは痛みがないため、気づかないうちに進行していることも少なくありません。

2. 誤った歯磨きの仕方

「しっかり磨かなきゃ」という気持ちから、力を入れすぎてゴシゴシと歯磨きをしていませんか? 実は、強すぎるブラッシングや硬い歯ブラシの使用は、歯ぐきを傷つけ、退縮の原因になることがあります。

毎日のことだからこそ、正しい磨き方を身につけることがとても大切です。

3. 噛み合わせの問題

噛み合わせが悪いと、特定の歯に過度な力がかかり、その周りの歯ぐきや骨に負担がかかります。また、就寝中の歯ぎしりや食いしばりも、歯と歯ぐきに大きなストレスを与え、歯肉退縮を引き起こす要因となります。

4. 歯並びの乱れ

歯並びが悪いと、歯ブラシが届きにくい場所ができて歯周病が進行しやすくなるだけでなく、歯が骨の範囲からはみ出すような位置にあると、その部分の歯ぐきが薄くなり、退縮しやすくなります。

5. 歯ぐき・歯槽骨の厚みの個人差

歯ぐきや歯槽骨の厚みには生まれつきの個人差があります。歯ぐきと骨の両方が薄いタイプ(専門的にはMaynardの分類でType4と呼ばれます)の方は、歯肉退縮が起こりやすいとされています。特に日本人は、欧米の方と比べて歯ぐきや骨が薄い傾向があるといわれています。

6. 加齢

年齢とともに歯ぐきの組織を支えるコラーゲンが減少し、弾力が失われていきます。これにより、病的な原因がなくても歯ぐきが少しずつ下がることがあります。これを「生理的歯肉退縮」と呼び、一般的には10年で2mm程度下がるといわれています。

7. 喫煙

タバコに含まれる有害物質は歯ぐきの血流を悪くし、歯ぐきの回復力を低下させます。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、歯肉退縮も進行しやすい傾向があります。

8. 矯正治療に伴う歯肉退縮

矯正治療で歯を動かす際、歯が骨の範囲を超えるような移動が生じると、歯肉退縮が起こることがあります。これは矯正治療において比較的よく見られる症状のひとつであり、治療前にリスクを把握し、適切に管理することが重要です。


歯肉退縮を放置するとどうなる?

「見た目がちょっと気になるだけ」と思って放置してしまう方もいらっしゃいますが、歯肉退縮はお口全体の健康に影響を及ぼす可能性があります。

根面う蝕(こんめんうしょく)のリスク

歯ぐきが下がって露出した歯根部分は、エナメル質で覆われていないため、非常にむし歯になりやすい状態です。歯根にできるむし歯は「根面う蝕」と呼ばれ、進行が早く、治療が難しいケースも少なくありません。最悪の場合、抜歯に至ることもあります。

知覚過敏

歯根が露出すると、冷たいものや熱いもの、甘いものなどが歯にしみるようになります。歯磨きの際にピリッと痛みを感じることもあります。これが知覚過敏の症状です。日常の食事や飲み物がつらくなり、生活の質に影響することもあります。

見た目の変化

歯ぐきが下がると、歯が実際以上に長く見えるようになります。前歯の場合は特に目立ちやすく、笑った時に気になる方も多いです。また、歯と歯の間に隙間ができることで、食べ物が挟まりやすくなり、審美的な面だけでなく、清掃性にも影響します。

歯周病のさらなる悪化

歯肉退縮によって歯と歯ぐきの間に隙間ができると、歯垢や歯石がたまりやすくなります。これが歯周病をさらに進行させる悪循環を引き起こし、最終的には歯を支えきれなくなって歯が抜けてしまうこともあります。


まずはセルフチェックをしてみましょう

以下の項目に心当たりがある方は、歯肉退縮が起きている可能性があります。

  • 歯が以前より長くなった気がする
  • 冷たい飲み物や食べ物で歯がしみる
  • 歯ぐきの位置が左右で違って見える
  • 歯と歯の間に隙間ができて、食べ物が挟まりやすくなった
  • 歯ぐきの色が赤っぽく、ブヨブヨしている
  • 歯磨きの時に歯ぐきから血が出る
  • 歯の根元に段差がある、またはくぼんでいる

気になる症状がひとつでもある場合は、早めに歯科医院を受診されることをおすすめします。


歯肉退縮にも「段階」がある——だからこそ早期発見が大切

歯肉退縮の程度や状態は人によってさまざまです。歯科の分野では、歯肉退縮の状態をいくつかの段階に分類して、治療方針や回復の見込みを判断しています。

ポイントとなるのは、歯と歯の間の歯ぐき(歯間乳頭)がどの程度残っているかです。歯間乳頭がしっかり残っている段階であれば、外科的な治療によって露出した歯根を再び歯ぐきで覆うことが比較的期待できます。しかし、歯と歯の間の歯ぐきや骨まで大きく失われてしまった段階では、完全に元の状態に戻すことは難しくなります。

また、治療が放置されたまま歯肉退縮が進行するケースは非常に多いことが報告されています。ある研究では、治療を行わなかった歯肉退縮の約8割が、その後さらに進行したというデータもあります。

つまり、歯肉退縮は「早い段階で気づいて対処するほど、改善の可能性が高い」ということです。「まだ大丈夫かな」と思っている間にも、少しずつ進行している可能性があります。気になることがあれば、できるだけ早く歯科医院で状態を確認してもらうことが、将来のお口の健康を守る大きな一歩になります。


歯肉退縮の治療法

一度下がってしまった歯ぐきは、残念ながら自然に元に戻ることはありません。しかし、適切な治療を行うことで改善できるケースがあります。

まずは原因の除去から

歯肉退縮の治療では、まず原因を取り除くことが最も大切です。歯周病が原因であれば歯周治療を行い、ブラッシングの仕方に問題があれば正しい磨き方の指導を受けます。噛み合わせの問題がある場合は、噛み合わせの調整や矯正治療を検討します。

原因を解消しないまま治療を行っても、再び歯ぐきが下がってしまう可能性があるためです。

歯周形成手術(歯肉の外科的治療)

原因の除去だけでは改善が見込めない場合や、審美的な回復が必要な場合には、外科的な治療が行われます。代表的な治療法をご紹介します。

結合組織移植術(CTG)
上あごの内側(口蓋)から結合組織を採取し、歯ぐきが下がった部分に移植する方法です。移植した組織が定着することで、歯ぐきの厚みと高さを回復させることができます。審美性にも優れた治療法です。

遊離歯肉移植術(FGG)
上あごから歯ぐきの組織(上皮と結合組織)を採取し、歯ぐきが薄い部分や足りない部分に移植する方法です。歯ぐきの幅や厚みを増やし、歯を守る丈夫な歯ぐきをつくることが目的です。

歯冠側移動術
歯ぐきを歯冠方向(歯の頭側)にずらすようにして、露出した歯根を覆う方法です。結合組織移植と組み合わせて行うことも多く、良好な根面被覆が期待できます。

これらの治療は高度な技術を要するため、歯周病を専門とする歯科医院で受けることが望ましいです。

知覚過敏への対処

歯肉退縮に伴う知覚過敏がつらい場合は、知覚過敏用の薬を塗布することで症状を緩和できる場合があります。また、フッ素配合の歯磨き剤の使用も効果的です。

*当院ではフッ素イオン導入を推奨しております。


歯肉退縮を予防するために

歯肉退縮は、日々のケアと定期的な歯科受診で進行を予防・抑制することが可能です。

正しいブラッシングを身につける

歯ブラシはやわらかめのものを選び、力を入れすぎず、やさしく小刻みに動かすのがポイントです。歯ぐきに対して45度の角度で歯ブラシを当て、歯と歯ぐきの境目を丁寧に磨きましょう。自己流の磨き方では気づかないクセがあることも多いため、歯科衛生士によるブラッシング指導を受けることをおすすめします。

歯間ケアを忘れずに

歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れを完全に取り除くことは難しいため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用しましょう。歯間の清掃を習慣化することで、歯周病の予防につながります。

定期的な歯科検診・メインテナンスを受ける

歯肉退縮はゆっくりと進行するため、ご自身では気づきにくいことがあります。定期的に歯科医院でチェックを受けることで、早期に変化を発見し、適切な対応を取ることができます。プロによるクリーニング(PMTC)で、日頃のブラッシングでは落としきれない汚れをしっかり除去することも大切です。

禁煙を心がける

喫煙は歯周病のリスクを大幅に高め、歯ぐきの回復力を低下させます。歯肉退縮の予防だけでなく、お口全体の健康のためにも、禁煙をおすすめします。

噛み合わせ・歯ぎしりへの対策

噛み合わせに不安がある方や、歯ぎしり・食いしばりの自覚がある方は、歯科医院で相談しましょう。就寝時にマウスガード(ナイトガード)を使用することで、歯や歯ぐきへの過度な負担を軽減できます。


矯正治療と歯肉退縮の関係

矯正治療では歯を動かす過程で歯ぐきに変化が生じることがあり、歯肉退縮もそのひとつです。特に、歯ぐきや骨が薄い方、歯を大きく動かす必要がある方では注意が必要です。

しかし、矯正治療と歯周治療を連携させた「包括的な歯科治療」を行うことで、こうしたリスクを最小限に抑えることが可能です。矯正治療を始める前に、歯ぐきや骨の状態を十分に評価し、必要に応じて歯周治療を先に行うことで、より安全で長期的に安定した治療結果を目指すことができます。

噛み合わせを整えることは、歯肉退縮の予防にもつながります。歯並び・噛み合わせにお悩みの方は、矯正治療と歯周治療の両方に精通した歯科医院にご相談されることをおすすめします。


よくあるご質問

Q. 歯肉退縮は自分で治せますか?
残念ながら、一度下がってしまった歯ぐきが自然に元通りになることはありません。ただし、初期の段階であれば、正しいブラッシングへの見直しや歯周病治療によって、それ以上の進行を防ぐことは十分に可能です。進行している場合は、歯科医院での専門的な治療が必要です。

Q. 歯肉退縮の治療は痛いですか?
外科的な治療を行う場合は局所麻酔を使用するため、術中に痛みを感じることはほとんどありません。術後に多少の痛みや腫れが生じることがありますが、通常は数日から1週間程度で落ち着きます。近年は低侵襲な術式も発達しており、患者さまの負担は以前に比べて軽減されています。

Q. 歯肉退縮は何歳くらいから起こりますか?
加齢に伴う生理的な歯肉退縮は30代後半から徐々に始まることが多いですが、歯周病やブラッシングの問題が原因の場合は、10代・20代でも起こることがあります。年齢に関係なく、お口の状態に変化を感じたら相談されることをおすすめします。


まとめ

歯肉退縮は、歯周病や誤った歯磨き、噛み合わせの問題、加齢、喫煙など、さまざまな原因で起こります。一度下がった歯ぐきは自然には戻りませんが、早期に発見し適切な対応を取ることで、進行を食い止め、改善につなげることが可能です。

特に大切なのは、「気づいたら早めに相談すること」と「日々の予防を続けること」の2点です。正しい歯磨きの習慣、定期的な歯科検診、そして歯ぐきの状態に意識を向けること——この3つが、健康な歯ぐきを長く保つための基本となります。

歯や歯ぐきのことで少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。皆さまのお口の健康を、矯正治療と歯周治療の両面から長くサポートしてまいります。