矯正治療と聞くと、「歯を抜くのが一般的」というイメージを持つ方が多いかもしれません。今回は、非抜歯矯正の概要とその治療方法、さらに非抜歯が適しているかどうかの判断基準について詳しく解説していきます。
非抜歯矯正とは?
「非抜歯矯正」とはその名の通り、歯を抜かずに矯正治療を行うことです。
歯を並べるスペースを作る為によく知られている方法が抜歯です。
矯正治療の場合、第一小臼歯(前から4番めの歯)を抜歯してスペースを確保し、歯を並べていく方法が従来からとられています。
しかし、矯正治療の技術も進歩し、抜歯以外にもスペースを作る方法が増えてきました。
非抜歯矯正の治療方法とは?
ここで非抜歯矯正の具体的な治療方法について解説していきます。
以下の3つがあげられます。
- IPR(ストリッピング/ディスキング)
歯と歯の間を少し削ってスペースを作る。歯の表面のエナメル質の3分の1程度(最大0.5mm程)になるため、
虫歯や知覚過敏のリスクが顕著に増加するわけではありません。
削る時には専用のヤスリや歯科治療で使用する歯を削るための器具を用いて行います。
何ミリも削ることはできないので他の方法を併用する場合もあります。
- 遠心移動
歯を口の奥に移動させる方法です。マウスピース矯正(インビザライン)が得意としています。
ワイヤー矯正でも遠心移動は可能です。その際補助的な器具が必要となります。
また、親知らずを抜歯する場合もあります。
- 側方拡大
歯槽骨という歯を支えている骨の範囲に沿って横に広げていく方法です。
歯槽骨に沿って歯が正しく並ぶと、上から見たときに歯はU字型に並びます。
歯並びが悪くなると往々にして歯はV字型になってしまいます。
これを本来の位置に戻すと、歯が横に広がりスペースができます。
小児矯正の場合は、骨が成長しきっていないので成長を助けて顎を広げるという場合が多いですが、
成人の場合は内側(舌側)方向に傾斜して生えている歯を外側に傾斜を変える目的とする意味合いが強くなります。
非抜歯矯正を行うための判断基準とは?
歯並びや咬み合わせによっては、抜歯を回避することが出来ない場合があったり、抜歯をする矯正のほうが良い結果に繋がる場合もあります。
非抜歯矯正と抜歯矯正のどちらを行なうかは、現在の歯の状態によって決定されます。
特に重視されるのが、以下の3点です。
1.歯並びの状態
歯並びの状態が、非抜歯矯正を行うのに適切かは大きな判断基準の1つです。
歯列のデコボコ度合いが強い、歯並びがかなりガタガタしているなど、歯列不正の状態が非常に深
刻な場合、抜歯矯正を含めた他の治療法を検討する必要があります。
逆に言えば、歯列不正の状態が軽度〜中程度であれば、非抜歯矯正による治療が可能です。
2.噛み合わせのズレ具合
噛み合わせの悪い状態を「不正咬合」といいます。
不正咬合には、上顎前突や下顎前突などいくつかの種類があります。
上顎前突:上の前歯が下の前歯より突出している(いわゆる出っ歯)
下顎前突:下の前歯が上の前歯より突出している(反対咬合ともいう)
近年は非抜歯矯正でも、遠心拡大などでこうした噛み合わせのズレを矯正しやすくなりました。
しかし、歯の移動できる距離は限界があるため、噛み合わせのズレが大きい場合は、抜歯矯正が必要です。
3.上顎前突の状態や横顔のバランス
前歯が前方に大きく傾いている場合や、前歯が突出しすぎているという場合、
非抜歯治療の適応が難しくなります。現在の上顎前突の度合いや横顔からみたEラインの状態から、
非抜歯矯正と抜歯矯正のどちらが適切かを判断します。
このように患者様の歯の状態によって、非抜歯矯正と抜歯矯正のどちらが適しているかは異なります。
まとめ
今回は非抜歯矯正についてお話してきました。非抜歯矯正は魅力的ですが、すべての人に適応できるわけではありません。歯科医師としっかり相談し、自分の口腔内の状況や長期的なリスク・メリットを捉えることが大切です。メンテナンスも重要ですので、定期的な検査を怠らないようにしてください。
【参考文献】
・抜かない矯正の最新知識 青山健一著 桐書房
・抜かない歯の矯正 古田博久著 海苑社