矯正治療と歯周組織再生——この2つは、これまで別々の分野として語られることが多いものでした。しかし近年、矯正中あるいは矯正後の歯肉退縮や骨吸収といった問題が顕在化する中で、両者の境界をつなぐ新しい治療概念が登場しました。
それが、O-PRO(Orthodontic-Periodontal Regeneration Operation)です。
本記事では、O-PROと従来の歯周組織再生術(GTR・GBR・CTGなど)との違いを、専門的視点からわかりやすく解説していきます。矯正中の方や、矯正をこれから始めようと考えている方、また矯正後の歯ぐきに不安がある方にとって有益な内容です。
■ 歯周組織再生術とは?その基本をおさらい
歯周組織再生術とは、歯周病などによって失われた骨や歯ぐきなどの歯周支持組織を再建するための外科的治療です。
代表的な術式として:
- GTR(組織誘導再生術)
- GBR(骨誘導再生術)
- CTG(結合組織移植術)
- CAF(歯根被覆術)など
があります。
これらは歯周病が進行して歯槽骨が失われた部位、あるいは歯肉退縮が顕著な部位に対して治療的に介入するもので、主に感染管理・再生・審美回復が目的です。
■ O-PROとは?目的からして異なるアプローチ
一方、O-PROは「矯正治療による歯肉退縮や骨吸収のリスクを予防するための処置」として設計されています。
開発者である綿引淳一先生は、『包括的矯正歯科治療』(クインテッセンス出版)の中でこのO-PRO法を以下のように位置づけています:
O-PROは、矯正治療における歯肉および歯槽骨の安全域(safe zone)を確保するために、移動前もしくは移動中に戦略的に実施される低侵襲な歯周組織再建手術である。
つまり、O-PROは「治療」ではなく「予防的介入」であり、 矯正治療の成功と長期安定を支える“予防歯周外科”ともいえるのです。
■ 比較表で見る O-PROと従来再生術の主な違い
| 項目 | O-PRO(綿引淳一) | 従来の歯周再生術 |
| 目的 | 矯正中・前後の歯肉退縮と骨吸収の予防 | 歯周病などで失われた骨・歯肉の再建 |
| 介入のタイミング | 矯正前・中・後(予防) | 歯周病進行後(治療) |
| 対象 | 骨・歯肉の薄い部位(特に前歯部) | 垂直性骨欠損・退縮部・歯肉欠損 |
| 代表術式 | P1〜P4分類(DBBM+FDBA併用等) | GTR、CTG、GBR、CAFなど |
| 特徴 | 低侵襲・拡大視野下での精密手術 | 病変除去+再生・移植術 |
| 審美性配慮 | 審美性と安定性の両立を目的とする | 主に機能回復、審美性は術後に調整 |
| 術後管理 | 矯正治療と並行した術後管理 | 歯周専門医による単独管理が多い |
■ なぜ矯正中に“予防的歯周外科”が必要なのか?
矯正治療中の歯の移動によって、以下のような事象が生じやすくなります:
- 歯槽骨のリモデリングに骨吸収が追いつかず、骨のサポートが減少
- 薄い歯肉や骨で構成された部位(下顎前歯部など)は、移動により退縮リスクが急増
- 移動に伴う負荷やブラッシング圧による退縮の発生
これらを事前に診断し、必要な箇所にO-PROを行うことで、退縮リスクを劇的に下げることが可能になります。