学術活動

2020.06.30

新型コロナウイルス×歯周病&糖尿病の危険性とは? -歯科メンテナンスの重要性について改めて考える-


 

新型コロナウイルス×歯周病&糖尿病の

危険性とは?

-歯科メンテナンスの重要性について

改めて考える-

 

いつもAQUA日本橋DENTAL CLINICのブログをご覧いただき誠にありがとうございます。

緊急事態宣言の解除から早いものでもうすぐ1ヶ月が経とうとしています。6月19日(金)には県をまたぐ移動制限も解除され、徐々にコロナ渦前の生活が戻りつつあります。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大前の状況に全てが戻るということは、残念ながら難しいでしょう。

とはいえ、経済活動を再開するためには「新型コロナウイルスとどのように付き合いながら生活するか」を考えていかなければなりません。

厚生労働省も「新しい生活様式」を発表し、つい先日にはスマートフォン向け新型コロナウイルス接触確認アプリ(iOS、Android)もリリースされました。もちろん日々の感染予防対策は必須ですが、必要以上に感染症罹患に怯えすぎず、知識とツールを以って生活していきたいですね。

 


歯科医療従事者の感染率について 

 

 そんな中、当院がかねてから着目していたデータが公表となりました。去る6月9日にソフトバンクグループが同グループ社員や医療従事者など44,066名を対象に実施した、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査の結果発表です。抗体検査にて陽性が出た人数は44,066名中191名で、全体の0.43%という結果でした。

ここで重要なのが歯科医療従事者の陽性率です。今回の結果で一番陽性率が高かった医療機関属性は「受付・事務(陽性率2.0%)」、次いで「医師(陽性率 1.9%)」「看護師等(陽性率1.7%)」と続き、そのあとに「歯科助手(陽性率0.9%)」「歯科医(陽性率0.7%)」が入りました。通常の医師以上に飛沫感染のリスクが高いとされていた歯科医の方が、通常の医師より陽性率が低いことが判明したのです。もちろん、そもそもの属性による抗体検査数にばらつきはありますが、本発表の動画配信に登場された国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏は、「驚くべきデータだと思う。歯科では口の中を処置するため、飛沫を浴びることが多く、リスクが高いと非常に心配されていた。(中略)」と述べています。当院が緊急事態宣言下に提唱していた「歯科医療施設の感染症対策の充実さ」や「歯科医療従事者の感染症に対する意識の高さ」が証明されたのではないでしょうか。

歯科医療施設での感染リスクがそこまで高くないという報告結果を踏まえて、改めてお口の病気と感染症の関連性を考えることとしましょう。今回は、特に国内の罹患率が高い「歯周病」と「糖尿病」との関連性をみてみましょう。

 


そもそも歯周病とはどんな病気?

 「歯周病」という病名を、みなさん一度は耳にしたことがあるでしょう。改めて歯周病(歯槽膿漏)について触れてみたいと思います。

歯周病とは、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯肉溝と言われる歯と歯肉の境目のブラッシングが行き届いていないと、歯垢(プラーク)が溜まってしまいます。歯肉辺縁が炎症を帯びて赤くなったり腫れることもありますが、痛みはほとんどの場合ないのが特徴です。

症状が進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、ブラッシングなどの少しの刺激で歯肉から出血をするようになり、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動いてしまい、最終的には抜歯をしなければいけなくなってしまいます。

 

 

そもそも人間の口腔内にはおよそ300~500種類の細菌が住んでいます。

これらの細菌は普段はあまり悪いことをしませんが、ブラッシングが十分でなかったり、砂糖を過剰に摂取すると細菌が歯垢(プラーク)を作り出し、歯の表面にくっつきます。

歯垢は粘着性が強く、うがいをした程度では落ちません。また、歯垢(プラーク)1mgの中には10億個の細菌が住みついていると言われ、むし歯や歯周病を引き起こします。

平成28年に厚生労働省が行った「歯科疾患実態調査」によると、30代の3人に2人は知らず知らずのうちに歯周病に罹患し進行しているという結果でした。

日本人が歯を失う二大原因が「虫歯」とこの「歯周病」とされており、40代後半になると虫歯よりも歯周病のほうが割合が高くなってきます。全体としては歯周病が最も歯がなくなる割合が高く、約4割を占めています。

ただ、歯周病は適切なブラッシング、ケア、定期的なメンテナンスで予防することが可能です。歯周病の原因となる歯垢(プラーク)蓄積させない、増やさないのが必要不可欠です。

 


歯周病、糖尿病の罹患者は

感染症にかかるリスクが通常より多い?

 上述した通り、歯周病は歯垢(プラーク)の蓄積によって歯肉や歯そのものにダメージを受けてしまいます。さらに「出血を伴う」ことも重要なポイントです。出血とはすなわち歯肉を通して血管とお口の中が繋がることを指します。つまりは、口腔内に存在する細菌が血管を通じて血液内に入りこんでしまう可能性もあるということです。

血流の中に菌が入り込んでしまう病気を【菌血症】といいます。この【菌血症】が新型コロナウイルスと深い関連性があると、鶴見大学歯学部教授である花田信弘氏が述べています。

 

口腔清掃をしないと細菌に由来する様々な毒性物質が歯肉に炎症を起こし上皮細胞を破壊します。これが日本人の8割が罹患している歯周病の始まりです。この歯周病を放置すると細菌や毒性物質が歯肉の毛細血管から全身に拡散します。(中略)口腔の細菌やエンドトキシンなどの毒性物質が最初に到着するのは心臓と肺です。血液培養で細菌が検出される病態である菌血症が発症している人にウイルスが感染すると混合感染による肺炎のリスクが高くなります。また、細菌を含む唾液を誤嚥することも二次的細菌性肺炎のリスクになります。(中略)以上をまとめますと、口の中の細菌や毒性物質は、循環器、呼吸器、消化器の3方向へ拡散し、ほぼすべての臓器に慢性炎症と免疫異常を起こします。平時ではそれが循環器病、誤嚥性肺炎、潰瘍性大腸炎のリスクになりますが、COVID-19による緊急時では敗血症の重大なリスクです。

「2003年に世界で流行した『SARS-1』の時の研究で、コロナウイルスが細菌と混合感染することで重症化することがわかっています。最初にウイルス性肺炎が起き、それに反応した免疫系が異常を起こして正常細胞を攻撃し、そこに細菌がやってきて重症化する-という流れです。ならばその細菌はどこから来るのかと言えば、解剖学的に考えると、口腔に行きつく。つまり、口腔内の細菌が歯周病を経て血管に入り込む“菌血症”が、コロナ感染と重なることで重症化するリスクを高めているのです」

 

また、花田氏は以下のようにも述べています。

 

「糖尿病の人の多くは歯周病を持っている。つまり菌血症のハイリスク群なのです。そして、血中にグルコースが多い(高血糖)の状態は、たとえ免疫系が働いても菌が簡単にはクリアにならない。そうこうしているうちに肺に到達して悪さをしてしまうのです」

 


歯の清潔を保つことは感染症の水際防止策!
緊急事態宣言が解除された現在

改めてお口のケアを見直そう!

 

 日本口腔衛生学会が、当学会に所属している歯科医院を開業している歯科医師189名に行ったアンケート結果によると、緊急事態宣言が発令された後の1日の来院患者数が10%以上減少した歯科医院は全体の78.3%にも及んだことがわかりました。やはり緊急事態宣言発令から診察を延期、キャンセルした患者様は多いでしょう。ただ、前述の通り歯科医療従事者及び歯科医院での感染症罹患率の低さは判明されました。また、歯周病を放置しておくとコロナウイルスと細菌の混合感染してしまう可能性も挙げられました。

つまり、口腔内の清潔保持や歯の定期的なメンテナンスこそが、ご自身でできる感染症予防対策となるのです。

歯科治療をお休みしていた方、自粛生活によって通常より甘い飲み物や食べ物を多く摂取していた方、ぜひこの機会に一度ご自身のお口の健康を見直してみてはいかがでしょうか。

 

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<参考文献>

日本の新型コロナ接触確認アプリ、Android版も公開 iOS版に続き

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/19/news140.html

 

口腔内の細菌が血管に…菌血症と糖尿病、コロナの怖い関係

https://news.yahoo.co.jp/articles/d908980cb3e8ffbbb5812019d1cb091a3174569d

 

歯周病とコロナ 3カ月健診とホームケアが重要 歯と舌の清掃はセットで 自宅でできる口腔ケア、専用マウスピースで除菌する「3DS」https://news.yahoo.co.jp/articles/1b4dbcbdff7e5a0f965583e628a2c1c8296b6224

 

全国4万人規模の抗体検査、0.43%が陽性

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202006/565972.html

 

抗体検査結果速報値等について

https://group.softbank/system/files/pdf/antibodytest.pdf

 

ウイルス感染に対抗する歯科の重要性 ー「インフルエンザ予防と歯周病菌との関係」より考えられることhttp://www.seikatsusyukanbyo.com/main/opinion/post.php

 

歯周病病原菌 歯科の吸血鬼 Pg菌の話 

https://www.nashikai.or.jp/hm/koushin/2013/mes_201305.pdf

 

医療従事者5850人抗体検査、陽性率は1.79%

https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/784718/

 

歯周病とは

https://www.jacp.net/perio/about/

 

口腔清掃の重要性:ウイルスに負けない地域社会のために

https://www.dent-kng.or.jp/colum/basic/2173/

 

日本口腔衛生学会・COVID-19対策緊急アンケート結果速報

http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/file/news/news_200519.pdf