「矯正治療は子どものうちにするもの」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし近年では、社会人になってから、あるいは40代・50代になってから矯正治療を始める方が増えています。マスク生活を経て口元への意識が高まったこと、オンライン会議で自分の顔を見る機会が増えたこと、そして「今からでも遅くない」という情報が広まったことなど、理由はさまざまです。
今回は、これから矯正治療を検討されている大人の方に向けて、治療を始める前に知っておいていただきたい基礎知識を、東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科 包括CLINICがまとめてご紹介いたします。
大人の矯正治療に「遅すぎる」はあるのか
歯や骨は生涯を通じて少しずつ変化し続けており、歯を支える骨と歯根膜が健康であれば、年齢を重ねてからでも歯を動かすこと自体は可能とされています。実際、当院にも40代・50代・60代で矯正治療を始められた患者様がいらっしゃいます。
ただし、成長期のお子様の矯正治療と、大人の矯正治療とでは考え方が異なります。成長期は顎の骨自体の成長を利用できますが、大人の場合はすでに骨格の成長が終わっているため、歯を動かすスペースの作り方や治療計画の立て方に工夫が必要です。また、大人になってから矯正を検討される方の多くは、歯周病や虫歯治療の経験、噛み合わせの崩れ、過去の抜歯など、お口の中にさまざまな背景をお持ちです。そのため、歯並びだけでなく、歯ぐきや歯を支える骨の状態まで含めて総合的に診査することが、安全な治療の第一歯となります。
具体的にご自身のお口の状態でどこまで治療が可能かは、レントゲンや口腔内の検査をしたうえで歯科医師が判断する必要があります。この記事はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針については、実際の診察にてご相談いただければと思います。
大人の矯正治療で特に注意したいポイント
歯周病の有無を必ず確認する
大人の矯正治療において最も重要なポイントのひとつが、歯周病の有無とその進行度です。歯周病は歯を支える骨(歯槽骨)が少しずつ失われていく病気で、自覚症状が少ないまま進行することが知られています。歯周病が進行した状態で歯を動かすと、支える骨が少ないぶん歯がぐらついたり、想定していない方向に動いてしまったりするリスクが高まるといわれています。
そのため、多くの矯正歯科では、矯正治療を始める前に歯周組織の検査を行い、必要に応じて歯周病治療を先行させるという流れを取ります。歯周病治療と矯正治療を並行、あるいは順序立てて行う「包括的な治療」の考え方は、大人の矯正においてますます重視されるようになってきています。
治療期間とライフスタイルとの両立
お子様の矯正と異なり、大人の矯正治療では仕事や家庭との両立が大きなテーマになります。通院の頻度、装置の見た目、治療期間の目安などは治療方法によって異なります。ワイヤー矯正、マウスピース矯正など、それぞれにメリット・デメリットがあるため、ご自身の生活スタイルに合わせて選択することが大切です。装置の種類ごとの特徴については、別の記事で詳しくご紹介する予定です。
費用について
矯正治療は基本的に自由診療となり、費用は治療方法や症状の程度によって幅があります。具体的な金額については、カウンセリングの際に最新の料金表に基づいてご案内いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
大人の矯正治療で選ばれることが多い装置の種類
矯正治療にはいくつかの方法があり、それぞれ見た目・費用感・通院頻度・適応できる症状の範囲などが異なります。ここでは代表的なものを簡単にご紹介します。それぞれの詳しいメリット・デメリットについては、別記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
ワイヤー矯正(表側・裏側)は、歯の表面にブラケットという小さな装置を接着し、そこにワイヤーを通して少しずつ歯を動かしていく、古くからある矯正方法です。適応できる症例の幅が広いことが特徴とされていますが、装置が目立ちやすい、装置に食べ物が挟まりやすいといった点が気になる方もいらっしゃいます。歯の裏側にブラケットをつける「裏側矯正(舌側矯正)」であれば、外から装置が見えにくいというメリットもありますが、費用が高くなる傾向や、発音への影響が一時的に出ることがあるといわれています。

マウスピース矯正は、透明なマウスピース型の装置を段階的に交換しながら歯を動かしていく方法です。装置が目立ちにくく、食事の際には取り外せることから、大人の方に選ばれることが多い方法のひとつです。一方で、装着時間を守っていただく必要があること、症例によっては適応が難しい場合があることなど、事前の診断が重要になります。

いずれの方法が適しているかは、歯並びの状態、歯周組織の状態、噛み合わせ、ご本人のご希望などを総合的に踏まえて歯科医師が判断いたします。カウンセリングの際に、ご自身のお口の状態に合わせた選択肢をご提案いたします。
治療期間と通院頻度の目安
矯正治療にかかる期間は、症状の程度や選択する治療方法によって大きく異なります。一般的には、動的治療(歯を動かす期間)だけで1年半から3年程度、その後の後戻りを防ぐための保定期間もあわせると、トータルで数年単位のお付き合いになることが多いといわれています。
通院頻度についても方法によって差があり、ワイヤー矯正では月に1回程度の調整で通院いただくことが一般的です。マウスピース矯正では、装置の交換自体はご自宅で行いますが、経過確認のための通院は一定間隔で必要になります。いずれにしても、無理なく通い続けられるかどうかは治療の成功に直結する部分ですので、ご自身のスケジュールと相談しながら治療方法を検討することをおすすめします。
よくある質問
Q. 歯周病があると診断されたら、矯正治療はあきらめるしかないのでしょうか。
歯周病の進行度によりますが、多くの場合、まず歯周病治療を行い、炎症をコントロールした状態にしてから矯正治療に進むという流れが取られます。歯周病があるからといって必ずしも矯正治療を諦める必要はありませんが、具体的な可否については診査のうえでの判断が必要です。
Q. 矯正治療中は歯みがきがしにくくなりますか。
ワイヤー矯正の場合は装置の周りに汚れがたまりやすくなるため、通常より丁寧な歯みがきや専用の器具の使用が必要になることが一般的です。マウスピース矯正は取り外して歯みがきができる分、比較的清掃しやすいといわれていますが、いずれの方法でも歯みがき指導を受けながら進めていただくことをおすすめします。
Q. 転勤や引っ越しの予定があっても矯正治療を始められますか。
転院が必要になる可能性がある場合は、事前にその旨をお伝えいただくことで、資料の準備や治療計画の立て方について相談することができます。
Q. 矯正治療と歯周病治療、どちらを先に相談すればよいのでしょうか。
どちらを先にご相談いただいても構いません。歯並びが気になって来院された場合でも、歯ぐきの腫れや出血が気になって来院された場合でも、まずはお口全体の状態を検査したうえで、どのような順序で治療を進めるのが望ましいかをご提案いたします。矯正と歯周治療を別々の医院に通う必要がないという点は、包括的に診療を行う歯科医院ならではの特徴といえます。
治療を始める前のカウンセリングで確認したいこと
矯正治療は数ヶ月から数年にわたる治療になることが一般的です。だからこそ、治療を始める前のカウンセリングで、疑問や不安をできるだけ解消しておくことをおすすめします。
たとえば、次のような点を確認しておくと、治療への理解が深まりやすくなります。ご自身の歯並びや噛み合わせの状態がどのように診断されているか、治療の選択肢にはどのようなものがあり、それぞれの特徴は何か、歯周病など歯並び以外のお口の状態についてどのような説明を受けているか、治療全体の大まかな流れと通院頻度はどの程度か、といった内容です。
カウンセリングは「治療を受けるかどうかを決めるための時間」でもあります。少しでも疑問に思うことがあれば、遠慮なく質問していただくことが、納得のいく治療につながります。
矯正治療と歯周病治療を別々に考えないという発想
一般的に「矯正歯科」と「歯周病治療」は別の診療科として扱われることが多く、歯並びの相談は矯正歯科医院へ、歯ぐきの相談は歯周病専門の歯科医院へと、通院先を分けているケースも少なくありません。
しかし、歯並びと歯ぐきの健康は密接に関わり合っています。歯並びが乱れていると歯みがきがしづらい部分ができ、汚れがたまりやすくなることで歯周病のリスクが高まるといわれています。逆に、歯周病によって歯を支える骨が失われると、歯が動きやすくなり、歯並びが少しずつ変化してしまうこともあります。
このような背景から、矯正治療と歯周治療を切り離さずに、ひとつのクリニックで包括的に診ていく「インターディシプリナリー(学際的)」なアプローチを重視する矯正歯科医院も増えてきました。当院も、矯正歯科と歯周治療を専門とする包括的な歯科医院として、歯並びとお口全体の健康の両面から治療をご提案することを大切にしています。

矯正歯科医院を選ぶ際に見ておきたいポイント
大人になってから矯正治療を検討する際は、装置の種類や費用だけでなく、次のような点も確認しておくと、医院選びの参考になります。
まず、歯並びだけでなく歯周組織まで含めて検査してくれる体制が整っているかどうかです。矯正治療の前提として、歯を支える骨や歯ぐきの状態を正確に把握できているかは、治療の安全性に関わる重要なポイントです。次に、治療計画やリスクについて、事前にわかりやすく説明してもらえるかどうかも大切です。治療期間、通院頻度、費用の内訳などについて、納得できるまで質問できる雰囲気があるかは、長期にわたる通院を続けるうえで重要な判断材料になります。
また、矯正治療中や治療後のメンテナンス体制が整っているかどうかも確認しておきたい点です。矯正治療は歯を動かして終わりではなく、動かした歯を安定させるための保定期間や、その後の定期的なメンテナンスまでを含めて、はじめて治療が完結するといえます。
まとめ
大人の矯正治療は、成長期のお子様の矯正とは異なる視点が必要です。特に歯周病の有無や進行度は、治療の可否や進め方に大きく関わるため、矯正治療を検討される際には、歯並びだけでなくお口全体の状態を診てもらえる歯科医院を選ぶことをおすすめします。
「今から矯正治療を始めても大丈夫だろうか」「歯周病があるかもしれないけれど矯正できるのだろうか」といった不安をお持ちの方は、まずはカウンセリングにて現在のお口の状態をご確認いただくことから始めてみてはいかがでしょうか。